路地裏Blue Night.
弟の変わらない笑顔を信じて、僕は少女をおぶって走った。
その一瞬で振り返って捉えた小さな背中は、まだ小さくて、寂しそうで、本当は怖くて泣いているような気もして。
だけどお前は───…
『ぎゃぁぁああああああ!!!』
『っ───!!睦月……っ!』
裏口から出たところで、今まで聞いたことないくらいの弟の悲鳴が聞こえた。
どうなってるんだ、今すぐ戻らなきゃじゃないのか。
僕は兄ちゃんだから。
だけどUターンしなかったのは、背中に乗った女の子が睦月にも見えたから。
睦月の服を着ていることもあったかもしれないけれど、目の前の命はここにあるんだと。
睦月が身代わりになってまでも救おうとした命が、ここにあるんだと。
『…どう…すればいい、僕は、どうすればいいんだよ……、』
兄ちゃん兄ちゃんって呼んでいる気がする。
この子をどこかに隠して、とりあえず倉庫に戻った方がいいんじゃないか。
あんなのバレるに決まってるよ。
だって睦月、お前はもう格好いいヒーローなんだから。
立派な男の子なんだから。
『に……ちゃん、…にげて、』
『っ…!!睦月…!!』
『オ…レ、だって、オ、レは……、』
痛々しくて鈍い音と一緒にイヤモニの音は砂嵐になった。
その先で睦月が言おうとしていた言葉は、さっき倉庫内でも聞いたものだろう。
“だってオレはα9のお助けマンで、兄ちゃんとユーリの弟だから”───って。