路地裏Blue Night.




「澪、…私は、もう2度とあなた達とは暮らさない」



彼女が“私”と言った理由も。

“暮らせない”じゃなく“暮らさない”と言い切った理由も。


それは母親としてじゃなく、1人の女として第2の人生を歩みたいという決意で。



「チャンスだと思った、ここしかないと思った。借金をして…お父さんはお弁当屋を閉めて…、
これを逃したら私はまたあなた達に縛られて生きなくちゃならなくなるのよ」



縛ってた……の…?

私たちはお母さんを縛ってた…?


ちがうでしょ、親の勝手な借金に縛られてたのは私だよ。



「私が母親の仕事を終えて、いつもゆっくりできた時間はいつか知ってる?」



“仕事”だなんて。

お弁当屋さんだけじゃなく、母親として生きることも“仕事”だと言われてしまった。

そんなの言われたら…もうなにも言えないよ。



「……夜中、とか…?」


「ううん。正解は……ないの」


「ない…?って、」


「無かったのよ、ゆっくりできる時間なんて」



そんなことない。

だってビーズを作ってくれたときも、夜中になってたけどお母さんひとりの時間は与えられてた。



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