路地裏Blue Night.
ガヤガヤしてて申し訳ないです、ほんと。
でもおかげさまでとびきりの月、見せてあげられますよ。
ただ少し高いところに上るので覚悟しておいてくださいね───。
「また何かありましたらお気軽にS.Roberまでご連絡ください。では、…またあとで」
“観羅伎街のお助けマン、5年間行方不明だった犬の捕獲成功!”
なんて書かれた写真付きの貼り紙を街で見かけでもしたのだろう。
その夜の依頼人は、少しぎこちなく声を発した男性だった。
「さっちゃーん、指名なんて初めてだし…どんな依頼なの…?
それにこんな人がいないところで待ち合わせ?」
「もう少しで会えるよ。…娘の活躍と元気な姿を見たいらしくて」
「……むす…め……?」
「うん。出所、したんだって」
「───…、」
嬉しさと複雑さを消してしまう春の夜風から隠すように、影は合わさった。
「大丈夫、僕が隣にいるから。…それに僕も挨拶しておきたいし」
眠らない歓楽街、消えない明かり、渦巻く欲望と孤独。
街灯と月を間違えてしまうその街は、
観羅伎町─かんらぎちょう─
と、いいまして。
「ねぇ…さ、皐月っ、」
「…ふっ、なーに?」
「この街も中々わるくないねっ!」
そんな街で唯一見ることができる、大好きな大好きな月は。
私が放った決め台詞を聞いて、嬉しそうに笑った───。