初恋だった人が結婚した【完】
その人は少し笑って、「君もここがお気に入り?」と聞いてきた。
うまく声が出せずに大きく頷く。
「仲間だ、ここいいよ」
隣の椅子をポンポンと叩いて招かれた。
「一年生?」と聞かれ、また大きく頷く。
「俺は、2年」
男子にしては低くない声で、ゆったりと話している。
「名前、聞いてもいい?」
喉に声が引っかかって少し掠れて、聞き取れたか不安だった。
「どんな字書くの?」
持っていたノートに漢字で書く。
「じゃあ、ももって呼ぶね」
多分わたしの声が届かなかったのだろう。
本当の名前はももではない。それでも訂正はしなかった。
ももと呼ばれている時間は、先輩のどこか異質でキラキラした世界を共有できている気がしていた。