転生うさぎ獣人ですが、天敵ライオン王子の溺愛はお断りします!~肉食系王太子にいろんな意味で食べられそうです~
 ベルの予想通り、次の日も、その次の日もレオン様は村へやって来た。しかも、護衛の騎士――ジェイドさんも毎回一緒に来るようになった。再三注意しても言うことを聞かないため、村へ来させないようにすることはあきらめたようだ。……王子じゃなくて、ジェイドさんがあきらめてどうする! と、私は落胆した。
 レオン様が最初に村へ来てから、今日でちょうど一週間が経った。
 始めのほうは、レオン様が来るたびに村は大騒ぎで、まるで祭りのような空気になっていた。しかし今では、彼が村にいることはもはや日常茶飯事となっていた。顔を合わせれば互いににこやかにあいさつを交わすような関係だ。マリルーに至っては、すっかり仲良しになっている。彼女のコミュニケーション能力の高さは、私には到底真似できないだろう。
「おはようリーズ。今日もかわいいね」
 ……ついでに、レオン様が私へ猛烈なアタックを繰り返す光景も、村ではすっかり当たり前の光景と化してしまっていた。
「……毎度毎度、懲りずによく来ますね」
 今日も庭で花に水をやっていると、レオン様が私の前に姿を現した。
 さすがに少し慣れてきて、最初ほど怯えることはなくなったけど、やっぱりまだライオンである彼への苦手意識は消えない。近くに来られると怖いので、できるだけ距離を取って会話することを心がけている。
 ジェイドさんはめんどくさそうに、私とレオン様の様子を木陰から見守っていた。ジェイドさんは、いちばん身分の低い私が王子への態度が悪いことを、あまりよく思っていないように見える。だけど、私だってわけもわからず一方的に言い寄られて迷惑していることはわかってほしい。
「リーズ。今日はいつもより時間があるんだ。よかったらゆっくり話さないか?」
 庭を囲っている塀の向こう側から、レオン様が言う。
今まではわずかな時間の中で村に寄っていたようで、あまり長いあいだここに滞在することはなかった。今日はいつもより長くいるってことか……うぅ。胃がキリキリしてきた。
「申し訳ありませんが、私、今日は忙しくて」
「あれ、おかしいな。昨日マリルー嬢から、〝明日はベルがいないから暇だ〟ってリーズが嘆いていたという情報を買ったのだけど」
「そんなくだらない情報をわざわざ買わないでください!」
 マリルー! いつのまにレオン様相手に商売始めちゃってるのよ!
 まさか、それを聞いて今日時間を確保して来たんじゃあ……? おおいにありえる。レオン様、計算高そうだし。マリルーも、だから今日私の誘いをめずらしく断ったのね。いつもは一緒にお茶をしようと言えばふたつ返事で飛びついてくるのに。どうして私じゃなくて、レオン様の味方をするのよっ! あとで文句を言いにいかなきゃ!
「え、えっと、それは……」
 しどろもどろになる私を見て、レオン様はじりじりと私を追い詰めるように続けて発言する。
「いつも一緒にいるベルオムの姿も見当たらないし、マリルー嬢の言っていたことの信憑性は高いと思うんだけどなぁ」
 ベルがいないことも事実だ。ベルは時折、ひとりでふらっとどこかへ出かけてしまう。出かけるときは、前日にいつも教えてくれるのだけど、ついていく許可をもらったことはない。魔獣の事情とかなんとか言っていたが、くわしくは教えてくれなかった。言いたくないことを問い詰めるのもよくないと思って、私も深く追求することをやめた。そして今日が、そのたまにあるお出かけの日だったのだ。
「それに、鼻歌を歌いながら水やりをしている姿は見ていて癒されたけど、とても急いでいるようには見えなかったし……でも、本人が忙しいと言うなら仕方ない。マリルー嬢が、僕に虚偽の情報を買わせたということか……だとしたらこれは詐欺罪に……」
「い、いえ違います! 本当は暇です! すっごく暇です!」
 このままだと私のせいで、マリルーにあらぬ被害が及んでしまいそう。私は嫌々ながらも、さっきの自分の発言を訂正した。勝手に私の情報を彼に横流ししていたことは恨むけど、マリルーがレオン様になにか罰を科せられるのは避けたい。
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