転生うさぎ獣人ですが、天敵ライオン王子の溺愛はお断りします!~肉食系王太子にいろんな意味で食べられそうです~
「リーズ。いつまで顔を洗っているんだ」
「へっ? あ、ごめん。考えごとしてた!」
 ベルに声をかけられ、私ははっと我に返る。
「すぐにご飯作るからっ!」
 バタバタとキッチンへ走る私を見て、ベルがあきれたように言う。
「どうせまた、昔会った人間の男のことを考えていたんだろ」
 うっ……。図星だけど、それだけじゃないもの。
 黙っている私に、ベルが追い打ちをかけるように続けて口を開く。
「そんなにそいつに会いたいなら、リーズも村から出ればいい」
「ベル! どうしてそんな寂しいことを言うの?」
 私はキッチン近くで座り込んでいるベルに駆け寄ると、思いきり抱き着いて頬ずりをした。ベルの自慢のもふもふの毛を、直接頬に感じられて気持ちいい。
「たしかに今の暮らしは不自由もあるし、レガーメの男の子のことは時々思い出すけど……私はベルとずっと一緒にいられたらそれで幸せなのっ」
 これは私の本心だ。私にとって、ベルは恩人であり、かけがえのない存在だから。

 幼いころ、森に薬草を採りに行き迷子になったときのこと。私は不運にも上流階級の獣人の子供たちと遭遇し、うさぎだからといって石を投げつけられた。帰り道も教えてもらえず、いじめられて泣いている私を見て彼らは笑っていた。
 そのとき、急にしげみからベルが姿を現したのだ。初めて見る本物の魔獣に、その場にいた誰もが恐怖で凍り付いた。もちろん、私も。
 ベルは怯える私の前に立ちはだかると、そのまま威嚇していじめっ子たちを追い払ってくれた。
『大丈夫か?』
 普通に言葉が話せることにも驚いた。聞けば、ベルはいろんな国を渡り歩いていたが、ノーブルの森が気に入って、長い間この森に棲みついていたようだ。
 こんなに強い魔獣が、うさぎの私を助けてくれた。
 生まれたときから、国の風習で差別されてきた私にとって、ベルはヒーローのようだった。ベルは私を森から村まで送り届けてくれ、帰ろうとしたところを私が泣いて引き留めたんだっけ……。
 あまりに私がベルに懐いたものだから、ベルも観念してしばらく村で一緒に住むことになった。最初は一ヶ月だけという約束だったけれど――その直後、もともと身体の悪かった母親を病気で亡くした。父親は私が生まれてすぐに事故で亡くしている。外国へ仕事に行こうとしたところで起きた、馬車の事故だと母に聞いた。
 当時私はまだ六歳で、ひとりで生きていくには早すぎる年齢。
 ひとりぼっちになった私を、ベルは放っておけなかったのだろう。期間限定という約束はいつのまにかなくなり、ベルは村に留まる選択をしてくれた。
 もちろん、ほかの村の住人たちにも助けられたが、私が両親の死を乗り越えられたのは、間違いなくベルがそばにいてくれたから。
……という経緯があって、私はベルのことが大、大、大好きなのだ。それはもう、なにものにも代えられないほどに。
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