転生うさぎ獣人ですが、天敵ライオン王子の溺愛はお断りします!~肉食系王太子にいろんな意味で食べられそうです~
突然、家のドアがバンッ! と勢いよく開かれる。
驚いて、心地よい夢の世界へ飛びかけていた意識は、すぐに現実へと引き戻された。ベルは私を守るように、毛を逆立てて私の前に立ちふさがる。
「ふたりとも安心して! なにもしないから大丈夫だって」
ドアから姿を現したのは、上機嫌なマリルーだった。
「……なんだお前か。驚かすな」
ベルはマリルーを見て、戦闘態勢を崩しいつも通りに戻った。
「おかえりマリルー。もう騒ぎは落ち着いた?」
私が聞くと、なぜかマリルーはにやにやとしている。……なんだろう、あの笑み。なんだか嫌な予感がする。
「そんなことより、リーズに会いたいって人がいるから連れてきたのよ」
「……私に?」
村の人なら、みんな顔見知りなのだから、わざわざマリルーを介して会いに来る必要がない。
「どうぞ。入ってください。レオン様」
「ああ、すまないね。ありがとう」
……今なんて言った?
確認する暇もなく、マリルーはまるで我が家のように、訪ねてきた人物を家の中へと誘導した。
そして私の前に現れたのは、先ほど私のトラウマを呼び起こした張本人――ノーブル王国第一王子、レオン・ラファルグ。
「ど、どうして王子がっ……私にっ……!」
うまく声が出せず、上ずった変な声を出してしまった。
立ち上がることができず、座ったまま後ずさるものの、背後は壁。……どうしよう。逃げ場がない。王族に向かって、庶民の私が『出て行ってください』なんて言えるはずもない。
レオン様は一歩、また一歩と、ゆっくりと私に近づいてきた。
開いたドアの向こう側に、私たちの様子をひそかに窺う、村の住人たちが見える。誰でもいいから私の場所と変わってほしいと、心の中で切に願った。
マリルーはドアの横で相変わらずにやついているし、ベルも黙って、今はレオン様の動向を窺っている。
「あ、彼が村に住んでいるっていう魔獣か。お父様から彼の話を聞いたことがあって存在は知っていたけど、実際会うと迫力満点だな」
ベルを発見したレオン様は、そう言って瞳を輝かせた。ベルはなにかを言い返すこともなく、ただじっとレオン様を見ているだけ。
そうこうしているうちに、王子が私の目の前までやって来た。にこりと笑みを見せると、座り込んでいる私と目線を合わせるように、王子はその場に膝をついた。……ひぃっ! 高そうな長めの羽織が私の家の床にっ! あとで汚れたと難癖をつけられて、お金を請求されたりしたらどうしよう!
「こんにちは。僕の名前はレオン・ラファルグ。君は?」
切れ長の瞳にスッと通った鼻筋。髪の毛には艶があり、近くで見ると想像の何倍もイケメンだ。しかし、無意識に私は頭の上にある耳を見てしまう。そして王子がライオンであることを再認識すると、本能的に、いくら王子がかっこよくても怖くてたまらない。
なにも言わない私を見て、レオン様は困ったように首を傾げる。
「……君の名前、教えてもらっていいかな?」
「へっ⁉ あっ! ごめんなさい! ……初めまして。私はリーズ・シャレットといいます」
なんとか恐怖心を隠しながら、私は王子に返事をした。
私をじっと眺めて、レオン様は満足げにふっと笑うと、衝撃的な言葉を言い放った。
「リーズ。君をずっと探していたんだ」
「……は?」
私を探していた? 誰が? わけがわからない。
混乱する私をよそに、レオン様は私の手を取った。そして流れるような動きで、私の手の甲に綺麗な薄ピンク色の唇を寄せた。
ちゅっというかわいらしい音に、たしかに手の甲に感じた柔らかな感触。キスされたことに気づくのに、時間はそうかからなかった。
なぜ私がレオン様にこんなことをされているのか。ううん、それよりも――この状況は危ない。
ロマンチックともとれるシーンだが、私にとってはホラーだ。次に唇を寄せられてしまえば、ぱくりと手を食べられるかもしれない。だって、相手は前世で私を食べようとしたライオンの獣人だもの!
恐怖で固まる私を見て、レオン様は微笑んだ。
「緊張してるの? ふっ。かわいいね。さっきも身体が少しプルプル震えていたし」
違います。あなたが怖いだけです。
驚いて、心地よい夢の世界へ飛びかけていた意識は、すぐに現実へと引き戻された。ベルは私を守るように、毛を逆立てて私の前に立ちふさがる。
「ふたりとも安心して! なにもしないから大丈夫だって」
ドアから姿を現したのは、上機嫌なマリルーだった。
「……なんだお前か。驚かすな」
ベルはマリルーを見て、戦闘態勢を崩しいつも通りに戻った。
「おかえりマリルー。もう騒ぎは落ち着いた?」
私が聞くと、なぜかマリルーはにやにやとしている。……なんだろう、あの笑み。なんだか嫌な予感がする。
「そんなことより、リーズに会いたいって人がいるから連れてきたのよ」
「……私に?」
村の人なら、みんな顔見知りなのだから、わざわざマリルーを介して会いに来る必要がない。
「どうぞ。入ってください。レオン様」
「ああ、すまないね。ありがとう」
……今なんて言った?
確認する暇もなく、マリルーはまるで我が家のように、訪ねてきた人物を家の中へと誘導した。
そして私の前に現れたのは、先ほど私のトラウマを呼び起こした張本人――ノーブル王国第一王子、レオン・ラファルグ。
「ど、どうして王子がっ……私にっ……!」
うまく声が出せず、上ずった変な声を出してしまった。
立ち上がることができず、座ったまま後ずさるものの、背後は壁。……どうしよう。逃げ場がない。王族に向かって、庶民の私が『出て行ってください』なんて言えるはずもない。
レオン様は一歩、また一歩と、ゆっくりと私に近づいてきた。
開いたドアの向こう側に、私たちの様子をひそかに窺う、村の住人たちが見える。誰でもいいから私の場所と変わってほしいと、心の中で切に願った。
マリルーはドアの横で相変わらずにやついているし、ベルも黙って、今はレオン様の動向を窺っている。
「あ、彼が村に住んでいるっていう魔獣か。お父様から彼の話を聞いたことがあって存在は知っていたけど、実際会うと迫力満点だな」
ベルを発見したレオン様は、そう言って瞳を輝かせた。ベルはなにかを言い返すこともなく、ただじっとレオン様を見ているだけ。
そうこうしているうちに、王子が私の目の前までやって来た。にこりと笑みを見せると、座り込んでいる私と目線を合わせるように、王子はその場に膝をついた。……ひぃっ! 高そうな長めの羽織が私の家の床にっ! あとで汚れたと難癖をつけられて、お金を請求されたりしたらどうしよう!
「こんにちは。僕の名前はレオン・ラファルグ。君は?」
切れ長の瞳にスッと通った鼻筋。髪の毛には艶があり、近くで見ると想像の何倍もイケメンだ。しかし、無意識に私は頭の上にある耳を見てしまう。そして王子がライオンであることを再認識すると、本能的に、いくら王子がかっこよくても怖くてたまらない。
なにも言わない私を見て、レオン様は困ったように首を傾げる。
「……君の名前、教えてもらっていいかな?」
「へっ⁉ あっ! ごめんなさい! ……初めまして。私はリーズ・シャレットといいます」
なんとか恐怖心を隠しながら、私は王子に返事をした。
私をじっと眺めて、レオン様は満足げにふっと笑うと、衝撃的な言葉を言い放った。
「リーズ。君をずっと探していたんだ」
「……は?」
私を探していた? 誰が? わけがわからない。
混乱する私をよそに、レオン様は私の手を取った。そして流れるような動きで、私の手の甲に綺麗な薄ピンク色の唇を寄せた。
ちゅっというかわいらしい音に、たしかに手の甲に感じた柔らかな感触。キスされたことに気づくのに、時間はそうかからなかった。
なぜ私がレオン様にこんなことをされているのか。ううん、それよりも――この状況は危ない。
ロマンチックともとれるシーンだが、私にとってはホラーだ。次に唇を寄せられてしまえば、ぱくりと手を食べられるかもしれない。だって、相手は前世で私を食べようとしたライオンの獣人だもの!
恐怖で固まる私を見て、レオン様は微笑んだ。
「緊張してるの? ふっ。かわいいね。さっきも身体が少しプルプル震えていたし」
違います。あなたが怖いだけです。