義兄の純愛~初めての恋もカラダも、エリート弁護士に教えられました~
結局、碓氷さんに納得してもらうことは叶わなかった。父親を説得するほうが厄介かと思いきや、彼女自身があんなに頑固だったとは……ここまで難航する交渉も珍しい。
帰りのタクシーの中で、父が疲れ切ったようなため息をついている。
「聖の気持ちは変わらなかったか……。どれだけ惚れ込んでいるんだ? その好きな子に」
「さっき言った通りだよ。もう一回聞く?」
「いや、ごちそうさま」
父は俺に結婚を薦めるのをようやく諦めたらしく、脱力気味に返した。
今日の食事会は、俺には碓氷さんと結婚する意志がないという確固たる言葉の証拠を公然の場で残すためでもあったのだが、縁談話はこれきりになるだろう。あとは彼女が諦めてくれるのを待つしかない。
流れていく夜の景色を眺めて考えていると、父が歯切れの悪い調子で言う。
「なあ、聖の好きな子っていうのは、もしかして……」
おそらく気づいたのだろう父に、「時が来たら話す」とだけ返した。六花を手に入れることができたなら、そのときは嫌でも打ち明けなければならない。俺たちは家族なのだから。
帰途につくと、雪乃さんが迎えてくれた。六花の姿は見えないので、風呂に入っているか自分の部屋にいるのだろう。