義兄の純愛~初めての恋もカラダも、エリート弁護士に教えられました~

 彼から語られた収賄の事実は、公表されている判例とは微妙に違っていたのである。

 菅屋さんは、筧が懇意にしていた建設会社の社長から『筧議員には世話になったので、そのお礼です』と紙袋を渡された。その中に入っているものは金銭であると瞬時に察し、受け取れないと拒否したのだそう。

 しかし筧からはひどく𠮟責され、受け取るよう強要された。『言う通りにしなければどうなるかわかるだろう』『君の家族を地に落としてやることもできるんだぞ』などと脅され、そうせざるを得なかったのだと。


「菅屋さんは筧から脅され、心ない仕打ちを受けていたようです。なのに、裁判でそれが論じられた記述はない」


 俺が話すのを、御村先生は黙って聞いている。その横顔からは、なにを考えているかは読み取れない。

 筧は裁判になると、『すべて秘書が独断でしたことで、私はなにも知らなかった』と白を切った。菅屋さん側からそれを覆すような立証がされなかったため、裁判所は筧の言い分を認めた形になった。

 菅屋さんは裏切られたのだと憤慨したが、御村先生に『裁判を長引かせるのは懸命とは思えない』と言われたという。それになにより、自分が受け取ってしまったのは事実だからと、控訴するのは諦めたのだそう。
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