義兄の純愛~初めての恋もカラダも、エリート弁護士に教えられました~

「こんばんは。六花がお世話になっています」


 私たちのテーブル席までやってくると、わずかに口角を上げてアキちゃんに軽く頭を下げた。傍からは普通に見えるだろうが、私には彼の目が笑っていないことくらいすぐにわかる。

 アキちゃんも気まずそうに表情を固くして「こんばんは」と返した。聖さんはそれ以上話す気はないと示すかのごとく、私に顔を向けて手を差し出す。


「約束の時間だよ。帰ろう、俺たちの家に」


 甘い言葉を口にされているのに、不機嫌さが伝わってきて身体が強張る。聖さんに依存していたらいけないと話したばかりだし、アキちゃんの前でこの手を取っていいものだろうか。

 ためらう私を見兼ねたのか、聖さんのほうから手を取られてドキリとした。エスコートするように立たせられるものの、どことなく強引さも感じて委縮してしまう。

 彼は自分の財布から十分な額のお札を取り出してテーブルに置き、椅子にかけていたコートを私の肩にかけた。その早業に呆気に取られているうちに、彼はアキちゃんに「失礼します」と短く告げ、再び私の手を引いて歩き出す。
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