義兄の純愛~初めての恋もカラダも、エリート弁護士に教えられました~

「聖さん、待って」
「りっちゃん……!」


 問答無用で連れて行かれる私を、アキちゃんが思わず呼んで腰を上げる。小夏もなにか言いたげに口を開いていたけれど、出入口にたどり着くのはあっという間だ。


「アキちゃん、小夏、ありがとね! また連絡する」


 私はとりあえずそれだけ言い、慌ただしく四季咲をあとにするはめになった。

 外へ出ると、突き刺すような寒さに身体が凍りそうになる。一気に酔いも醒めるほどで、「寒っ」と声に出して肩にかけたコートの前を掻き合わせた。


「悪い、車すぐそこだから」


 聖さんは抑揚のない調子で言い、私を寒さから守るようにコートの上からしっかりと肩を抱く。不機嫌なくせにこういう扱いを自然にするから、私の心はぐらぐらと揺れるのだ。

 近くの駐車場に停めていた車に乗り込むと、暖房がかけられて車内はあっという間に暖まった。

 聖さんは無言で発進させ、家までの約十分の道のりを進む。その間、沈黙が続いてとても気まずい。

 そういえば、ふたりでケンカってほとんどした記憶がないな。勉強中に私がヘソを曲げて、聖さんが宥めることは何度かあったけれど。基本彼は優しいから、こんなふうに不機嫌さを露わにするのは珍しい。
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