別れを選びましたが、赤ちゃんを宿した私を一途な救急医は深愛で絡めとる
そんな気持ちでいっぱいで、膨らみすぎた風船が弾けそうになっていた時期もあったけれど、なんとかここまで来た。


「今日、絵本読んだよ。保育園にもあるの」
「なにが?」


凛はおしゃべりな子に育ったが、まだ三歳。
時々大切なところが抜けてしまう。


「こぐまさん!」
「こぐまさんのはちみつケーキね。人気なのね」


私が幼い頃から大切にしている絵本が、凛の世代の子供たちにも読まれていると思うと、なんだかうれしい。

私の記憶は相変わらず完全に戻ってはいないが、あの絵本を手にするたび、なぜかとても懐かしい気がする。

なにか大切な思い出が詰まっているのかもしれない。


それを思い出せないのが少し残念ではあるけれど、もし事件の記憶とかかわりがあるのならこのままでいいのかもしれないとも思っている。


陸人さんは、今日も野上総合で必死に命をつないでいるはずだ。

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