別れを選びましたが、赤ちゃんを宿した私を一途な救急医は深愛で絡めとる
凛を軽々抱き上げた陸人さんが、自分の膝の上に座らせたので驚いた。

凛はご機嫌で「早く」とせがんでいる。


「それじゃあ、はじまりはじまり」


陸人さんが絵本を開いたとき、ふと思い出した。

彼のマンションに初めて行ったとき、『くまがいないかなと、いつも見てる』と言っていた。

もしかして、この絵本と関係がある?
冒頭をすらすら口にしたのもそうだし、窓から遠くの山を見てくまを探す人なんていないだろう。

なにかがつながっているような……。
すごく大切なことを忘れている気がするのに、それがなんなのか思い出せない。


それから私は、しばらくふたりの様子を眺めていた。


『凛はあなたの子です』


そう言ってしまえばどれだけ楽か。
彼の反応を見ていると、凛のことをかわいがってくれそうだし。

けれども、それでいいのかわからない。


「先生、読むのじょーず!」
「ありがと。凛ちゃんはかわいいなぁ」
「凛。そろそろ帰ろうか。先生、昨日の夜、寝ていらっしゃらないの」
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