別れを選びましたが、赤ちゃんを宿した私を一途な救急医は深愛で絡めとる
「引っ込み思案とは意外です」
「そう? 友達の輪に入れなくて、いつもひとりで絵本を読んでたんだ」


彼も絵本を拾い始めた。


「あっ……」


そのとき、目の前に落ちていた絵本を見て、体にゾワッとした感覚が走り抜ける。

裏表紙をめくった部分に、ぐにゃぐにゃ曲がったとても整っているとは言い難い字で、【りくとこはる】と記されていたのだ。

表紙を確認すると、こぐまさんのはちみつケーキだった。


「これ……」


記憶の引き出しからなにかが出てきそうで出てこない。

頭に手を持っていくと、陸人さんが隣に来て「大丈夫?」と声をかけてきた。


「あのっ……」

「ちっとも友達ができない俺を心配した母が、キッズステップという幼児教室に連れていってくれたんだ。ところがそこでもひとりで絵本を読んでて……。でも先生が同じように絵本に夢中だった心春を連れてきてくれて、すぐに意気投合し――」

「そうだ……」


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