別れを選びましたが、赤ちゃんを宿した私を一途な救急医は深愛で絡めとる
先生が読んでくれたこぐまさんのはちみつケーキを気に入って、私も陸人さんもそれぞれ親にねだって買ってもらった。

陸人さんがそれを幼児教室に持ってきたとき、先生に『自分のだとわからなくなるから名前書こうね』と促されて、彼に『心春ちゃんも書いて』と言われて署名したんだ。


「思い出したの?」
「少しだけ。陸人さんと一緒に、この絵本読んでた……」


彼に視線を送ると、なんとも言えないようなうれしそうな表情でうなずいている。


「そう。ふたりともこれにはまって、ふわふわのパンケーキが好きになった。おまけに遠くの山を眺めては『こぐまさんどこにいるかなぁ』って。今でも探したくなるよね」


彼が『くまがいないかなと、いつも見てる』と漏らしたのは、やはりこの絵本に関係あったんだ。


「あれっ……」


そのとき、ふと別の光景が頭に浮かんで言葉をなくした。


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