別れを選びましたが、赤ちゃんを宿した私を一途な救急医は深愛で絡めとる
ゆっくりではあるが深いところをえぐるような腰の動きに悶え、彼のたくましい腕をつかむ。


「あー、もう……」


彼は悩ましげに顔をゆがめ、やがて果てた。



その後、ふたりで食彩亭に向かうと、恵子さんがすさまじい勢いで飛び出てきて抱きしめてくれた。


「心春ちゃん、おかえり」
「恵子さん……。心配かけてごめんなさい」


急に辞めてしまったのに、おかえりと迎えてもらえるのがありがたい。


「いいのよ。全部天沢さんから聞いたの。つらかったね。よく頑張ったよ」


まるで母のような温かさに、涙腺が緩む。


「心春ちゃん!」


私たちが抱擁を交わしていると、重さんも顔を出した。


「重さん……。いろいろご迷惑をおかけし――」
「迷惑なんてひとつもかかってない。おかえり」


恵子さんと同じように、おかえりと言ってくれる重さんに「ただいま」と返す。

ここは私のもうひとつの実家だ。


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