別れを選びましたが、赤ちゃんを宿した私を一途な救急医は深愛で絡めとる
「えっ?」


着たばかりのパジャマを脱ぎ捨てて、私のセーターに手を伸ばす彼に驚いた。


「じ、自分で!」
「痛むんだから、遠慮するなって」


遠慮しているわけじゃない。
いや、多分彼はわかっていてそう言っている。


「ま、待って」
「待たない」
「でもっ……ちょっ……」


押し問答している間にあっさりすべて脱がされた私は、バスルームに入れられてしまった。

恥ずかしさのあまり陸人さんに背を向けると、彼はすぐにシャワーコックをひねる。

そして私の傷に唇を押しつけた。


「つらい?」
「だ、大丈夫……」
「強がるな。心春はひとりで頑張ってきたんだ。もう十分だ」


彼に肩を抱かれてささやかれ、胸に込み上げてくるものがある。

この傷があるせいで心ない陰口を叩かれた。

初めて会う人は、敵か味方かと身構えてしまう癖は抜けないし、距離を縮めるのも慎重になる。

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