マリアの心臓



付き合ったら、おれはまちがいなく、センパイのことを好きになれる。


だけど。

きっと、愛せはしないんだ。




「知ってるか? 心臓ってひとつしかないんだぜ」

「は? そ、そんなの当たり前じゃ……」

「そのたったひとつを、奪える男になりてえんだ」




好きって言われたから好きになる。
そんな、おままごとの恋じゃなくて。


次は、おれから言いたい。


おれが、奪いに行きたい。




「それって……羽乃くん、好きな子いるの?」

「え……っ」




好きな子。

そう訊かれて、思い浮かんだ顔に、ドキッとした。


い、いや、でも……これは……「好き」の言葉におさめていいのか?

ちがう気もするが、言いきれる根拠もない。


息を呑むだけになってしまったおれに、センパイは「ふーん」といじけたように唇をむっと尖らせた。




「ざんねーん。羽乃くんをわたしのモノにできると思ったのに」

「も、ものって」

「でもありがとね。ちゃんと言ってくれて」

「……こっちこそ。ありがとう」

「ちなみに、わたし、しばらくあきらめないから。そこんとこよろしくね」

「えっ」




清々しいほどの笑顔に、背筋がぞぞぞっとのけぞる。

ちょっと怖え……。


またね、と手を振られたが、さすがに返せなかった。


< 101 / 155 >

この作品をシェア

pagetop