マリアの心臓
付き合ったら、おれはまちがいなく、センパイのことを好きになれる。
だけど。
きっと、愛せはしないんだ。
「知ってるか? 心臓ってひとつしかないんだぜ」
「は? そ、そんなの当たり前じゃ……」
「そのたったひとつを、奪える男になりてえんだ」
好きって言われたから好きになる。
そんな、おままごとの恋じゃなくて。
次は、おれから言いたい。
おれが、奪いに行きたい。
「それって……羽乃くん、好きな子いるの?」
「え……っ」
好きな子。
そう訊かれて、思い浮かんだ顔に、ドキッとした。
い、いや、でも……これは……「好き」の言葉におさめていいのか?
ちがう気もするが、言いきれる根拠もない。
息を呑むだけになってしまったおれに、センパイは「ふーん」といじけたように唇をむっと尖らせた。
「ざんねーん。羽乃くんをわたしのモノにできると思ったのに」
「も、ものって」
「でもありがとね。ちゃんと言ってくれて」
「……こっちこそ。ありがとう」
「ちなみに、わたし、しばらくあきらめないから。そこんとこよろしくね」
「えっ」
清々しいほどの笑顔に、背筋がぞぞぞっとのけぞる。
ちょっと怖え……。
またね、と手を振られたが、さすがに返せなかった。