マリアの心臓
教室に戻ると、電気が消えていた。
それでも十分明るく照らす夕日を遮るように、長い影が教室の真ん中にくっきりと浮かび上がる。
「……優木?」
彼女は自分の席に姿勢正しく座り、ホチキスを握り締めていた。
机の上にどっさりと乗っかるプリントを、ホチキスで留めていたらしい。それも日直の仕事のひとつだ。
「おい、優木?」
「……」
さっきから1ミリも反応してくれない。
電池切れしたみたいに、超おとなしい。
こ、これは、もしかして……。
「……お、怒ってんのか?」
「……」
「昼休みのことか? あ、あれは……問い詰めるような真似して、悪かった。まさか左目のこと知ってると思わねえじゃん? それで……おれ……」
「……」
「ち、ちげぇのか? ……あっ、日誌出して帰ってくんの遅かったことか!? そ、それは、その……別の用事があってさ……!」
「……」
完全無視。
この冷たい静けさが、罪悪感をチクチク刺してきて、けっこう痛い。
むらなくきれいに消された黒板。
寸分の狂いなく整頓された机。
ぴかぴかに磨いて締められた窓。
日直のやるべきことを、全部、クリアされていた。
おれの出る幕はもうない。
机に山積みにされたプリントも、やり終えたあとのようで、ちゃんと同じ個所に針が止められていた。
「ひとりで完璧にこなしてくれたんだな……」
「……」
「優木、ありが……」
「……、」
こつん、とホチキスが手からすべり落ちた。