マリアの心臓



小学6年生のころ。


定期検診で病院に行ったときも、屋上でこっそり泣いてた。


なんで泣いてたのか、はっきりとは思い出せない。

検診を受けるたび、自分の中の何かが悪いのだと訴えられているようで、苦しかったのは憶えてる。



そんなときだ。

病衣姿の少女に、声をかけられたのは。




『泣いてるの?』




泣いてるところを見られた、とか。
知らない子に話しかけられた、とか。

頭の中はテンパっていたけれど。


そんなことよりも。

ドキドキがうるさくて仕方がなかった。



太陽の光から守ってくれるように目の前に現れた、見知らぬ少女に、目を、奪われた。



――人生で一番の、出会いだった。



引きこもりのおれより、ずっと白くて、小さくて、いつかぽきりと折れてしまいそうな女の子だった。


同じ人間とはとても思えなかった。
それくらい儚くて、きれいで。




『お名前は?』

『……う、羽乃』

『ウノくん? すてきな名前だね! アタシは――』




ぽろろ、と涙が止まらなかった。

どういう涙なのか、自分でもうまく表せない。


けれど、ずっと、この情けない両目には、やさしい熱が凪いでいた。


少女は「泣かないで」と言うことも、涙を拭ってやることもなく。




『アタシの分も、泣いてくれてるの?』




ありがとう、と。

ただただ切なそうにほころんだ。


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