マリアの心臓
ぜえはあ、とだらしなく息を乱しながら、じりじりと迫り来る。
天使のような少女と、そこはかとなく顔立ちが似ていた。
けれど、顔つきはまるで悪魔そのもの。
正気の沙汰じゃない。
少女の足は、震えていた。
おれが学校に行きたくなくてうずくまっているときよりはるかに苦しそうで。
逃げたくても、逃げられない。
『ごめ……ごめんなさい、お父さん……』
なだめるように謝る少女に、父と呼ばれた男はニンマリと口をゆるませた。
『そうだよ、おまえが悪いんだ』
……おれの耳が、おかしくなったのだろうか。
『おまえが生まれてきたから、いけないんだよ』
『うん……わかってる、わかってるから……』
『本当にわかってるかい? おまえが生まれてから、金も時間も、信用もなくなって、ウチはふつうじゃなくなったんだ。全部、おまえのせいなんだよ?』
『……うん、っ……はい、ごめんなさい』
おれの目も、おかしくなってしまったんだ。
泣きすぎたせいで、錯覚でも起こしているのか。
でなければ、どうかしてる。
親の言うセリフじゃない。
けっしてわかっちゃいけない、でたらめだ。
聞いてるだけで涙が出てくるのに。
あの子は、ひと粒たりとも流さない。
苦しさでいっぱいになりながらも、いまだ、頬は上を向いている。
必死に、こらえている。