マリアの心臓
「心配してくれてありがとう。でも、アタシ、学校に行ってみる」
せっかく健康な体になれたんだもの。
引きこもってばかりいたら、彼女の時間がもったいない。
せめて、彼女が帰ってくるまで、彼女のためにがんばってみたいの。
「まりあ……」
「わかったよ。何かあったらすぐ帰ってきていいからな?」
「無理はしないでね。約束よ」
「うん、約束」
小指を交わらせ、ゆびきりげんまん。
するとぎゅうっとふたりから抱きしめられる。
泣きそうになる。家族って、あったかいな。
「いってきます!」
ツインテールをくくるリボンを、耳下できゅっと結ぶ。
家族に家の前まで見送られ、学校へ向かった。
記憶に従い、たどり着いた公立高校。
アタシにとってははじめてのはずなのに、懐かしさを覚えるのは、彼女自身の思いだろうか。
心臓が、ドキドキいってる。
ついぼうっとしていたら、ドンッ、と誰かと肩がぶつかってしまった。
クラスメイトらしき女の子だ。
しりもちをつき、お尻をさすっている。
「イタタ……」
「ごめんなさい、大丈夫ですか?」
「いや、わたしのほうこそ前見てなくて……ッ!?」
手を差し伸べれば、女の子の申し訳なさそうな顔が一変し、歪められる。
アタシは気にせず、途中でピタリと停止した女の子の手をさらりと受け取り、起き上がらせた。
「えっ……あ、あの……!?」
「ケガ、してないですか?」
「え!? あ、はい、まあ……それより……え!?」
「ご無事でよかったです。ケガしちゃったら大変ですから」
「そ、そう……ですね……??」
「お互い気をつけましょうね」
ぺこりと礼をし、先に校舎へと歩いていく。
そんなアタシを、女の子は呆然と眺める。
その一部始終を見ていた他の生徒もまた、愕然としていた。
「ねえねえ」
「ツインテールの、あの子さ」
「――先週までとは、別人みたいだね」