マリアの心臓







「……結局、会えなかったんだけどな」




傷は想像以上に深手で、左目の周りまで何針も縫った。

あの騒動は大事となり、ニュースにもなった。


親子喧嘩に不運に巻きこまれ、左目を失った少年。
そんな見出しに、同情の声がたくさん寄せられた。


おれはまったく気にしてなかった。


はじめは、まあ、義眼には慣れないし、不便だし。
小学生ながら思うこともいろいろとあったけど。


あの女の子のことを考えれば、たいしたことじゃなかった。



また会えると、信じていたから。




「あの子はすぐに転院しちまったんだ」




そのことを知ったのは、おれが動けるようになってからだ。

両親が離婚したからだと、風のうわさで聞いた。




「会いに行きたかったけど、できなかった」




名前しか知らなかった。

あのときしか、話したことがなかった。


転院先を聞こうにも、大人たちが騒動のことを気を遣って、教えないようにしていた。大きなお世話だ。けど……あんなことがあったあとじゃ、遠ざけたくなるよな。



この左目だけが、あの子とのつながり。




「おれの初恋は、叶えられなかったよ」




よくみんなに、見る目がないって指摘されるけど。

それはきっと、初恋にすべてを使い切ってしまったせいだ。


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