マリアの心臓
地獄の使徒
「羽乃、遅い~」
「わりぃ、わりぃ! 日直でさ」
「……ほらよ」
あわただしく幹部室に入ってきた羽乃に、黒いパーカーを放り投げてやった。
難なくキャッチした羽乃は、制服の上からそれを羽織る。
3人ともまったく同じ恰好だ。
せっかくの白シャツが汚れちまうのは、もったいないだろう?
「今日は何だっけ」
「どっかで横領した参謀だ」
「ああ、そうそう、裏でもなんか取引してるヤツだったな」
「最悪、一筋縄じゃいかないかもねえ」
ジッパーを一番上まで持ってきて。
フードを目深にかぶり。
正体を隠せたら、準備完了。
「行くぞ」
「ほーい」
「了解」
薄暗闇の倉庫に、質感のちぐはぐな靴音が並ぶ。
下っ端は別の仕事で出払っていて、倉庫はがらんとしている。
オレらまでいなくなると、また空気が変わる。さながら、いわくつきの廃墟も同然だ。
入口前に在るのは幽霊、ではなくバイクだ。
それぞれ乗りこみ、エンジンをつける。
黒い布の内に秘めた、青みがかった銀のメッシュは、きっと今夜は月を拝めはしないだろう。
寂れた通りをかっ飛ばせば、ネオンがチカチカと目立ちだす。
今夜の仕事場、繁華街だ。