マリアの心臓
……見られてる。
下駄箱まで迷わずたどり着けたのはいいものの。
勘違いじゃない。
見られてる。
すっごく見られてる!
さっきから背中にグサグサ視線を感じる。
周りからコソコソ話し声も聞こえてくる。
ちょっと怖くて、いっこうに下駄箱から上履きを取り出せずにいる。
でも、ずっとこうしているわけにも……。
よし。
1、2の3、で取り出そう。
いくぞ……1、2の。
「3っ!」
上履きを勢いよく取り、くるりと半回転する。
ふっ、と影が落ちる。
おそるおそる顔を上げると、
「……エイ、ちゃん?」
と、彼女が呼んでいた男の子が、いた。
モデルさんのようなスタイルの良さ。
中心の彫りが深い、ハーフ顔。
宝石みたいにきらめく碧眼。
黒っぽく見える髪の毛は、藍色に光る。
目にかかる前髪には、瞳の色を浮かしたような青みがかった銀色の線が入っている。
なんてきれいなヒトなんだろう。
エイちゃん……本名はなんだっけ。
……あぁ、そうだ。
――水附 衛。
「エイちゃん……だ……」
「……学校、来たのかよ」
「え?」
ハッとして聞き返すと、うんざりした表情で息をつかれた。
ドッ、と心臓が騒ぐ。
……彼が、彼女の、好きな人。