マリアの心臓
“マリア”
――きらいだ。
泣きそうだ。
でもそれは、アタシじゃない。
だってね?
そう言われるたびに、どうしてだろうね。
アタシには、聴こえてくるの。
好き、って。
「あのね、エイちゃん」
苦々しくつぶれた顔に、そっと左の指で触れる。
ふいと避けられそうになり、右の手でも包みこんで、無理やり目を合わせた。
陰る碧眼は、泣けもせず、ひどく歪んでいる。
涙を押し殺してきたんだろう。
アタシと同じように。
あなたの気持ちが、よく見えるよ。
「紙飛行機ってね、がんばれば空高くまで飛んでいけるんだよ」
「……かみ、ひ、こうき……?」
「一回落ちたとしても、何かの、誰かの力で、また何度でも飛べるの」
「な、にを……」
知ってるよ。
アタシ、憶えてるんだよ。
意識を失う、少し前。
看護師さんに、ひとつの紙飛行機を渡された。
アタシ宛だろう、と。
『ハーフっぽい、すごくきれいな男の子だったわ。なぜか袖の部分だけ濡れていたけど』
『そのヒトが、これを?』
『そうなの。この紙飛行機をゴミ箱のほうに飛ばしたんだけど……なんとなく悲しそうで。おせっかいかもしれなくても、あのままにはしておけなくて』
紙飛行機の羽の部分には、「まりあ」の文字が見え隠れしていて。
紙を広げてみたら、たったひとこと。
――死ぬなよ、まりあ。