マリアの心臓
○
「はいこれ携帯。ウノくんのだよね?」
「おお! サンキューな!」
ひと波乱のあと。
路地裏を通り抜けた先の小道で、本来の目的である忘れ物を無事に届けた。
路地のほうでは、不審者らしき男性数名とエイちゃんら神亀が戦った痕跡が、ありありと点在している。
ここからじゃ、痕跡は、伸びてる足くらいしか見えないけれど。
エイちゃんに危ないからと、ここに一時避難するよう案内されてから、10分もしないうちにこの有様になった。
今、エイちゃんが痕跡の後片付けをしているらしい。
「携帯は助かったけどさ、衛の言ってたとおり、今後二度と危ない橋を渡るんじゃねえぞ?」
うっ。耳が痛い……。
エイちゃんにもこっぴどく注意された。
待ってるって言うなら、ちゃんと安全な場所で待ってろ、と。
そんなこと言われちゃったら、わがままできない。
うなずくしかないじゃんね。
「ま、おかげで、今日の衛、キレッキレだったけどな」
「そうなの?」
「ああ、やべえよ? 一撃の威力がハンパねぇの!」
「ほへ〜……」
脳内に、古いタイプの格闘ゲームの対戦画面が構築される。
クリティカルヒット連発で、即KO。
それですぐに決着がついて、静かになったのかな。
「なんか吹っ切れたみてぇに活き活きしててさ。まじかっこよかった」
そんなにかっこよかったなら、ちょこっと盗み見すればよかったかも。なんてね。また注意されちゃうな。