マリアの心臓



「その反面、こいつは」

「……」

「絶不調だったな、鈴夏」




ちらりとウノくんがななめうしろを一瞥する。

実は、そこにはずっと、巨大なキノコが。


……じゃなくて。


キノコが生えてるかのようにどんよりとした彼が、黙ってしゃがみこんでいる。

趣味も同然に聞き忍んでいたヘッドホンが、首の正位置からずれていることにすら、気がついていない。




「攻撃は当たるが、防御はてんでダメ。体がついてってなかったぞ」

「……」

「おい鈴夏、聞いてんのか?」

「……うん、きーてる」

「ふてくされんなよ。そういう日もあるって。ドンマイ」

「うるさい羽乃。……こんなときに気楽に戦えるか」




ごにょごにょと反論する姿は、ふてくされているように見えなくはないけれど。

どちらかというと……物憂げなような……。


表情が暗く見えるのは、単純に、頬が青く腫れているせいもあるかもしれない。

ほかにもいくつもの生傷も負っていて、見ているこっちまでヒリヒリ痛んできそう。




「あの、アタシ、手当てしましょうか?」

「……えっ」

「おっ! できんの?」

「うん! 救急箱、持ち歩いてるんだ!」

「すげえ! よかったな、鈴夏!」

「……え、ガチ?」




ガチです。

優木まりあのご両親が持たせてくれたんだ。アタシの必需品!


と、ちょうどそこに、エイちゃんからのお達しがかかる。




「おい、羽乃! 運ぶの手伝ってくれ」

「衛、了解。今行く! ……てなわけで、鈴夏のことよろしくな、優木」

「うん任せて!」

「……え? ……え??」




あっさりウノくんが路地のほうへ行ってしまった。


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