マリアの心臓


呆然とする彼をよそに、アタシは早速救急箱を広げた。




「応急処置するね」

「え……と……」

「傷、見せて?」

「っ、」




向かい合う彼の顔を軽く持ち上げると、ぴりっと微弱な静電気が走った。

ぽろり。
額の傷口から、ひと粒、赤い雫がたれていく。


傷が深い。

なのに平然としてる。

なんともないわけないだろうに。




「消毒するね。ちょっとしみるかも」

「……、」




きゅっと彼の唇が引き結ばれた。

そこからも血がたれてきそうなほど、固く、強く。


痛い、ってこぼしてもいいんだよ。
アタシにしか聞こえないのだから。


すっかりだんまりになってしまった彼を心配しながらも、順調に手当てを進めていく。

最後に絆創膏と湿布を、ぺたり、ぺたり。




「よし、これで、」

「……さっき……」




応急処置を終えると、開かずの口がかすかに息を吸った。




「想いも、傷も、愛してあげる……って」

「うん?」

「あの言葉ってさ……本心?」




探るように泳ぐ眼差し。


その真意は、アタシにはわからないけれど。

やさしい、やさしい、笑顔を送りたかった。




「もちろん。嘘偽りのない、心からの言葉だよ」




まぎれもない、アタシの、言葉。

アタシからの、約束。




「知ってるから。 一生懸命、守ってくれていたこと。だからね、アタシも守りたかったの」




ふたり分の想いを、傷を、守れるのはアタシしかいないでしょう?


きっと、そのために、アタシはこの身体に舞い降りたんだ。



いつか、アタシね。

ふたりの赤い糸になれる。


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