マリアの心臓



「……あぁ……やっぱりそうだ……」

「え?」

「そうだったんだ……」

「……? なにが……」




物憂げに考えこんでいた表情に、ふと、晴れ間が覗いた。




「……ま、りあ……」




たどたどしく。
けれど、消えてしまわないように。

丁寧に紡がれた、心地よい響き。




「あ……な、名前、はじめて呼んで……」

「“マリア”」




ドクン、心臓が、大きく高鳴った。




「な、名前、そんな呼ばなくても聞こえ」

「もういいよ。もう、全部、わかってる」

「っ、」




……あぁ、もうだめだ。




「マリア……マリアなんだろう?」

「……あ、アタシ……っ」




信じてくれないかも。
消えちゃうかもしれない。


……でも!


湛えられそうにない。
隠しきれない。


じわじわと視界を焼いていく涙が、ついにあふれる。

ぎゅっと、抱き寄せられた。




「マリア。……マリア」

「……――ちゃん……っ」

「マリア……やっと会えた……!」




そう、それは、アタシ――




「ボクの天使――マリア」

「お兄ちゃん……!」




――花室 マリアへの、愛だ。




「こんな夢みたいこと、起こると思わなかった……。また、マリアを抱きしめられるなんて……奇跡だ……っ」

「あ、あい……会いたかったよ……!」

「ボクも……忘れた日なんかなかったよ」

「う……うう……っ」

「一生守ってやるって約束したのに、守れなくて、ごめんな……っ」




なつかしい声。
なつかしい感覚。
なつかしい、温もり。


そのすべてに、さよならしたのは、アタシ。


苦しくて、さびしくて。

ハートの真ん中に、針が千本刺さって抜けなかった。



ごめんね、お兄ちゃん。



『いっしょう、まもってやる!』



小指を結びあった、あの日から。

大事にし続けた、その結び目を、切り離すことになったとしても。



ただ、アタシも。

あなたを守りたかったの。



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