マリアの心臓
神様の好敵手
ボクには、妹がいた。
『おにいちゃん! ねえ、こっちだよ!』
『マリア! ひさしぶりの外だからってはしゃぎすぎちゃだめだろ!』
健気で、無邪気で、真っ直ぐで。
いつも明るく照らしてくれる。
かけがえのない、ボクの妹。
『へへ、へーきだもーん!』
あぁ、かわいい。
世界一かわいい!
これは自慢なんだけど、ボクの妹はガチの天使だと思う。
たぶん、神さまに愛されすぎたんだ。
……だから。
『これ、おにいちゃんにぷれぜ……ごほっ、ごほっ』
『っ! だから言ったのに!』
『……へーき、だもん』
小さな妹は、天国に近い場所にいる。
1年の半分以上、病院で寝たきりの生活を強いられ、会えるのはせいぜい見舞いに来たときくらい。
否応なく閉じこめられた鳥籠の中。
かけ離れた自由と、“ふつう”。
理不尽で不平等な、蜘蛛の糸。
まるで、憎き神さまが、手招きしているように。
『このおはなをね、おにいちゃんにぷれぜんとしたかったの』
『……マリア……』
『……お、おこった?』
『っ、……ううん、ありがとう』
それでも、妹は、笑ってる。
やさしい、やさしい、笑顔をくれる。
そんな妹をどうして愛さずにいられるだろうか。