マリアの心臓
「ひ、ひさしぶり……」
ごまかすように挨拶を言ってみる。
なんだか変な感じだ。
って、自分ですら思ってるんだから、ふたりはもっと思ってるんだろうな……。
「悪女ちゃんがボクらに見惚れるわけないか~」
「衛にぞっこんだもんな」
「でも今日はあっさりと身を引いてたね?」
「押してだめなら引いてみろってやつか」
右の、ダークブラウンの直毛にも。
左の、かきあげられたピンクアッシュの髪にも。
さっきの、エイちゃんと同じ、青みがかった銀のラインが流れてる。
仲良し、なんだろうな。
だから、声をかけてきたんだろうな。
「なーに笑ってんのかな、悪女ちゃん」
「んむっ」
勝手にニマニマしていた唇を、きゅっとつままれた。
狐顔が怪しそうに睨んでくる。
まあいいや、とあっけなく唇を解放された。
「作戦だか何だか知らないけど、このままずっと引いてなよ」
「あいつを想うなら、なおさら、な」
「え……?」
どうしてそんなふうに言うんだろう。
何を、言っているんだろう。
アタシになる前の優木まりあ本人にも、たびたびこんなふうに牽制していた……らしい。
アタシにはどうしても、牽制なんかじゃなくて、願いごとに聞こえてしまうよ。