マリアの心臓




「会えた……願いが、叶った……っ」




抱きしめる腕をぎゅっと強めた。

どれだけ強めても消えてしまいそうで。


夢じゃない。
これは現実なんだ。

この温もりに安心したかった。




「アタシも、だよ」

「マリア……」

「もしも……もしもね? 願いが叶うなら、もう一度だけお兄ちゃんに会いたかった」




嗚咽混じりに震えて裏返る声。

そこにしみこんでいるのは、感動や喜び以上に、なぜか罪悪感のようなものを感じる。


会えてうれしいのに、少し、怖くなった。




「ごめんね、お兄ちゃん」

「……え?」




……きっと、ボクはまた、気づくのが遅かった。




「伝えたいことが、あったの」

「……なに?」

「アタシね、大きな嘘をついた」

「嘘……?」




腕をゆるめれば、マリアはほほえんでいた。


見覚えのある表情だった。

あれは……そう。



『さよなら』



そう告げていなくなったときと、似ている。


やさしくておだやかなのに。
どこか冷たく静やかな、色のないカオ。




「うそ……って、どんな……」




冷気がふっと横切った。




「アタシが、死んだ、っていう嘘」




……え?




「う、そ……? じゃあマリアは生きて……」

「ううん、今はもう、死んじゃった」

「今、は……?」




ドクドクと血の巡りが鈍くなっていく。




「“あたし”が……優木まりあが、1週間学校を休んだときがあったでしょ? あのとき、アタシは本物の天使になれたと思ったの」




あのとき。

ひさしぶりに会った彼女は、いつもと様子がちがった。

みんな、噂していた。


――まるで、別人みたいだと。


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