マリアの心臓
○
――目が、醒めた。
天に恵まれた、夏の朝。
目覚まし時計の反響する、ピンクの部屋。
クセがコンプレックスの、赤茶色の髪。
前よりふくらみの帯びた、赤い頬。
ドキ、ドキ、ドキ……と。
心臓は、正常に、うららかに、さえずる。
おもむろに扉が押し開かれた。
「あら。目が覚めたのね」
「よく眠れたかい?」
お母さんとお父さんが部屋を訪れた。目覚ましが鳴りっぱなしで、心配になって来たのだろう。
じわりと目のふちに熱がたまる。
「どうかしたの?」
「具合でも悪いのか?」
かぶりを振った。
眠りすぎた重たい眼をこすり、まあるくほころばせる。
……あぁ、ここは。
「元気ならよかったわ」
「おはよう、まりあ」
乾いた唇の表面には、かすかに温もりが孕んでいた。