マリアの心臓
かっこいい彼は、入学後すぐにファンクラブができるほどモテまくった。
そんな彼に毎日言い寄って、泣きつくあたしは、無意識のうちに他人の恋路を邪魔していた。……故意なときもあるけど。
そして、有無を言わさず、「悪女」の烙印を下された。
くすくすと底意地の悪い笑い声が、あちこちから聞こえる。
「……っ」
「は? あいつ、うちらのこと睨んでね?」
「悪女の貫禄こわ~」
「ハハッ、ウケる!」
……バカみたい。
あんたたちみたいに“フツウ”におごってる人と、一緒にしないで。
あたしは本気で彼が好きなの。
あたしの“ずっと”を、もらってほしいの。
彼じゃなきゃ、だめなの。
彼だけでもわかってくれたらそれでいいのに、どうして、わかろうともしてくれないの?
どうして。
――ザバアァァ……!!
「キャハハッ!」
「ざまあみろ!」
「あのヒトに近づいた罰だ!」
「悪女には制裁を、ってね!」
現実は、理不尽だ。
あきらめず彼を追いかけて中庭に来たとたん、頭上から水をぶっかけられた。
赤茶の髪も、セーラー服も、何もかもびしょ濡れ。
2階から降ってきたバケツが、足元でひしゃげる。
……どうしてよ。
あたしばっかり、苦しい。
ねえ。
エイちゃん。
助けてよ。
助けてくれないと。
「……っ、げほっ……ごほっごほっ……!」
あたしには、時間がないんだよ……?