マリアの心臓



「まりあ、何か悩みごとあるなら聞くわよ?」

「なんでも言ってごらん」

「あ……えっと……」




こ、これは……「なんでもないよ!」でごり押せそうにない。

何か、言わなきゃ……何か……。




「み、水附衛!」

「え?」

「え、エイちゃんって、ど、どんなヒト?」




気になっていたことではあった。

冷たいかと思えば、やさしいし。
でもやっぱり、冷たくされるし。


至って真剣に尋ねてみると、両親は顔を見合わせ、ごきげんに笑った。




「ふふふ。元気になっても、まりあはやっぱり彼のことばっかりなのね」

「まりあらしいな」




弧を描く目元が、きらり、光る。

うっすらと涙がにじんでいた。




「やだ……年のせいかしら」

「涙もろくなって、いかんな」




笑ってごまかそうとする両親。


こういうとき、なんて言えばいいんだろう。

「ごめん」も「ありがとう」も、ちがう気がして。
だからといって代わりの言葉も見つからない。



優木まりあ、彼女は、とても愛されてる。

そして、彼女もまた、ヒトをとても愛してる。



すべての愛を、大事にしなくちゃ。

大事にしたいヒトたちの笑顔を、守ってあげなくちゃ。


――今度こそ。



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