マリアの心臓



彼らに負けないようにと「おはようございます!!」とあいさつを返す。


と、じとりとした目が、こちらを流し見しながら過ぎていった。

ふんわりと巻かれたポニーテールが、すぐ横で揺れる。




「お、お姫……」




さま、と言い終える前に、ポニーテールが振り返る。

昨日、本当の姫役を演じた女の子が、アタシをキッと睨みつけた。


お姫さま呼びするなってこと、かな? はい、やめます。




「あ、ファンクラブ会長だ!」

「会長……悪女のこと睨んでない?」

「ほんと悪女きらいだねえ、センパイ」




そんな小声が、耳に入ってくる。


衝撃の事実!

あのポニーテールの女の子って、エイちゃんのファンクラブの会長だったの!? 初耳!


内心びっくりし、口をつぐんだまま静止してしまう。

そんなアタシに呆れてか、会長だという彼女は校舎のほうに顔を向き直してしまう。


あ……行っちゃう……!

しゅんと項垂れかけた、けど。
脇から、ひょっこりと、手が軽く振ってくれた。

あ、あれ! おはよってことだよね!? ぜったいそうだよね!?




「お、おはようー!」




彼女に聞こえるように大きくあいさつを返す。

もう一度振り返ることはなかったけれど、きっと届いてる。


たとえ届かなかったとしてもいいくらい、心は晴れ晴れとしていた。


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