マリアの心臓
この調子で、教室でも元気よくあいさつするぞ!
そう意気込んで来たのに。
なぜか教室前は静まり返っている。
「おかしい……」
昨日と同じ時間帯だけど、教室の中から声が一切聞こえてこない。
廊下にも誰もいない。
しかも、アタシのクラスだけ。
どうしてだろう?
おそるおそる教室の中を覗いてみると。
「羽乃くーん、なぐさめてぇ」
「またなんかあった?」
「会えなくてさびしかったの」
「そういうときは呼べって言ったろ。すぐ飛んで行くって」
「飛んで来て、どうするのぉ?」
「どうしてほしい?」
……~~っうひゃあああ!!?
思わずしゃがみこんでしまった。
だって、だって!
どえらいことが起こってるんだもん!
そろーりと、あらためて見直しても、やっぱり見間違いじゃない。
教室のど真ん中で、どこぞのカップルがイチャイチャを繰り広げてる。
髪の長い女の子が、派手髪の男の子の膝の上に乗って。
頬やら頭やら、体やら、いとおしげに撫でて。
どろどろに甘い言葉を、次から次へと降らせ。
そして、キスを……。
「ひゃあぁぁ!!」
だ、だめー! アタシにはまだ早い……!
あんなムードのところに入っていくのも、無理! ぜったい無理ー!
「何か声が……って、あれ? 優木?」
さりげなく開かれた教室の扉から。
扉の、奥から。
素知らぬ顔のウノくんに、声をかけられた。
「う、う、う……!?」
ウノくんだったの!?
「やべ。もしかして、今の見てた?」
「ッ!!」
く、クラスメイトのラブシーンを、見ちゃった……!
不可抗力だとしても……なんか、こう……むずがゆくて恥ずかしい!
すると、彼のうしろから抱きつくように、カノジョさんまで登場した。
「なあに? 覗き見?」
「あ……あ……」
「この子、うわさの子じゃん」
「教室入りづらかったよな、わりぃ」
「い、いえ……! お、おじゃましました!!」
他のクラスメイトも同じ気持ちだったのだろう。
幸い、ホームルームまでは時間はある。
一目散に教室から逃げ去った。