マリアの心臓



あてもなく息を切らしながら走っていたら、気づけば中庭まで来ていた。

ぜえ、はあ……と、今にも燃えそうな喉を休める。




「心臓、まだバクバクいってる……」




はじめて、ドラマじゃない、き、き、キスシーン……見ちゃった。

あまりの衝撃につい全力疾走しちゃったよ。足がガクガクだ。


……そうか、そういえばアタシ、走ってきたんだ。



「すごい……」



心臓が壊れそうになるくらいうるさく高鳴っているのに、まったく壊れない。

自然と、何もかも元に戻っていく。


まるで奇跡のようだけれど、そうじゃないんだよね。

好き同士のキスも、走ってるときの爽快感も、日常にありふれた“ふつう”なんだ。


今、アタシは、その一部になれている。


ちょっと、感動。
……うそ。すごく、ものすごく。



感謝しなくちゃ。

神様に。


そして、この身体を貸してくれている、優木まりあに。




「この気持ちを、アタシはどう恩返ししたらいいのかな……?」




心地よい心音に身を委ねる。

締め付けていた喉の奥が、少しずつ癒えていく。

もうどこも苦しくない。



優木まりあ、あなたは、苦しいのかな。

何を思っているのかな。



アタシ、あなたに会いたいよ。



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