マリアの心臓



両親の制止をふりきり、病室を飛び出した。

視界がかすみ、足がふらつく。



廊下の窓辺で、誰かが空を仰いでいた。


おそろいの水色の病衣。

傷みだらけの白い髪。

儚く消えてしまいそうな横顔。


まるで天使のような少女だった。



不意に目が合う。

どきりとした。


なぜか紙飛行機を抱いた手元に、骨が浮き出ていて。


天使の姿が、一瞬にして、骸骨(ガイコツ)と化す。




「あ、あの、」

「……! っ、ぃ、や……」




怖かった。


声をかけられたが、無視をした。

力の入らない下半身をせいいっぱい速く振り動かす。




「あ、待――ッ!!」




ぱたり、と。

床が振動した気がした。

それにしては、軽くて、うつろな音だった。



つ、と紙飛行機が飛んできた。



おそるおそる振り返れば。

今、ついさっきまで、たしかに佇んでいたはずの少女が、そこに倒れていた。


どくどくと心臓が重たく軋んでいく。



あたしもあんなふうになってしまうのかな……?



きれいに咲いた花も、いずれ必ず枯れてしまう。

しおれてしまえばもう、醜いだけで、誰の目にもとまらない。



エイちゃん。

あなたにも「きらい」って言われたら。


どうしたらいいのかな。



足がすくんで、歩くこともままならない。
かくんと膝が折れ、へたりこんだ。


涙が絶え間なくあふれる。

意識がもうろうとしていく。


お母さんが、お父さんが、看護師が、医師が、あわただしく駆け寄ってくる。



目の前には、地獄しかなかった。



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