マリアの心臓



また、涙ぐんだ声が、聴こえる。





「……なあ、おい!」

「……、」

「おい……まりあ……!」




そっと瞼を開ける。

塩っぽい湿り気が、目尻ににじむ。


軽く目を瞑っていただけのはずが、いつの間に寝ちゃってたんだろう。


……というか。




「エイちゃん……?」




どうして、エイちゃんが目の前にいるの?


どこか焦った様子でアタシの両肩をつかんでいる。

落っこちた涙の行方を気にしながらも、アタシの顔をまじまじと覗きこむ。

その眼差しは、ちょっと、怖い。




「大丈夫、なんだな?」

「な、何が……?」




それは何の確認? 何の「大丈夫」?


戸惑いながら返事をすれば、彼の眼差しが下がっていく。

草木の揺れにまぎれさせながら、深い呼吸音が流れていく。


震えた肩を戒めるようで、安堵しているようにも見えた。



……アタシの自惚れだろうか。


でも、だって。
エイちゃんがいけないんだよ。

拒絶してるくせして、自分から近づいてきてくれるから。


そういうやさしさは、ずるいよ。


また桜の花びらをくれるんじゃないかって、期待しちゃう。




「あなたは……変わらないんだね」




記憶と、重なる。

想いが、あふれる。


だから、よけいにわからなくなる。


エイちゃんの本心は、どこにあるの……?


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