マリアの心臓
悪い男たち



闇に浸かる路地裏。


廃ビルに囲われた、狭く、陰気なその場所に、青白くぎらつく銀色がみっつ。


いやに不気味で、濃厚なタバコと血の匂いが漂う。

それが身体にしみこむのを断つように、長い足が容赦なく吸い殻を踏んづけた。




「最っ悪」




うへえ、と琥珀色の目を尖らせるのは、鈴夏だ。

目の前で野垂れ死にした――正しくは、目下で気絶している巨漢に、八つ当たりの念を飛ばす。




「タバコの匂いってなかなか取れないんだよなあ……」

「おれらに盾突くヤツ、たいてい吸ってんじゃん」




ピンクアッシュの髪を整えながら、ため息まじりに返したのは、羽乃。




「だから毎回大変だってゆー愚痴」

「ならやめりゃいいじゃん」

「何を」

「神亀」




何の気なしに言ってのけた羽乃に、数拍の沈黙のあと、ふたりそろって噴き出した。




「ははっ! おま、簡単に言ってくれるねえ?」

「おれも自分で言ってバカだと思ったわ」

「そのネタ、下っ端にも言ってみようぜ」

「本気にしたヤツいたらどする?」

「そんときにゃ、現実思い知るだけだ」

「神亀はそういうとこだもんな。あはは!」




――神亀。


この闇に生息するにふさわしい、非行に走る餓鬼の集まり。

それをヒトは、暴走族と呼ぶ。


オレは、そこの総長なんてたいそうな役職についているが、実質ただの肩書きに過ぎない。

副総長の鈴夏も、幹部の羽乃も、やってることは同じ。



神亀にいるヤツはたいがい、ヒトには言えない悪さをしてる。



しなければいけなかった。

こうするしかなかった。


一度踏み入れてしまえば、もう、容易には抜け出せない。


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