マリアの心臓



――プルルル、プルルル!



微妙な静寂を、不意に機械音が制した。


この場に不釣り合いな陽気な音色。

現実が目を醒ますようで気分が悪くなる。




「あ、おれだ。わりぃ」




羽乃が携帯を取り出す。

血なまぐさい喧嘩のあとだろうとおかまいなしに、「もしもし」と飄々と取り繕う。


ちらっと画面が見えてしまった。明らかにオンナの名前、しかも赤いハートマークの絵文字付き。

思わず眉間にしわが寄った。



よくやるよ、と鈴夏は肩を軽く上げる。


オレから言わしてみりゃ、おまえもだよ。

いつなんどきもそのヘッドフォンを外さない時点で、同じ穴の狢であることに変わりはない。




「あー……そんで、なんだっけ」

「こいつの後処理の仕方」

「そーだそーだ。どーする? 放置? 片す?」

「痕跡は消す」

「だな。あとはぁ……どっか見つけやすそうなとこにでも投げとくか、もしくは……」



「――はあ!? なんで突然……!?」




キンと耳鳴りがした。

いきなり叫びやがった羽乃に目をやると、先ほどまでの余裕はどこへやら、情けないほどうろたえていた。




「ありゃ、なんかあったねえ」

「いつものやつだろ」




呆れ半分のオレに、鈴夏もうなずく。


何度目かね、と面白おかしく聞かれ、オレは首を回す。

ありすぎて覚えてねえよ。



しばらく声量の起伏が激しかった。


かと思えば、とたんに静かになる。

あ、電話終わったのか。




「どうした」




一応……まあ一応、心配してやれば、




「……別れるってぶち切りされた」




やっぱりな。

予想どおりの回答だ。


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