マリアの心臓
鈴夏は失笑しながら、やれやれとゆるく頭を振る。
「またかよ」
「またって言うなよ……」
「泣くなって。あんな女、別れて正解」
「う……」
人間の内臓が歪む音を聞いても。
血反吐を吐いた口から、折れた歯が飛んできても。
まったく微動だにしなかった男が、ここにきて涙腺をやられてる。
感覚狂ってんのか。
と、つっこみたくなるが、それとこれとはまったく別の話なのだろう。
そうわかってやれる自分を、無性に嘲笑いたくなる。
「泣き虫め」
「うっせえ鈴夏!」
「そんなんでよくカノジョにプレイボーイぽく振る舞えるよな、泣き虫チャン」
「うっせーって! オンナの前では泣かねえようにしてんの!」
「そのオンナに泣かされてますけど?」
「くっ……!」
羽乃には、女難の相がある。
カノジョができても3ヶ月続かず。
けれどすぐに新しいカノジョが名乗りを上げる。
かといって誰でもいいわけじゃない。
カノジョになるオンナを、羽乃はちゃんと好いていた。
ただ、その好きになったオンナが、奇しくもハズレばっかりなだけで。
「今回は浮気だろ」
「なっ! なんでそれを……!?」
ズバリ言い当てた鈴夏に、そこまで驚かれると、なんとも言えない気持ちになる。
「神亀みーんな知ってんよ」
「え!? 衛も!?」
「……ああ」
「下っ端のヤツらも!?」
「もち」
「まじかよ……」
そりゃそうだ。
羽乃と付き合う前から、神亀のメンバーに片っ端から言い寄ってたんだ。察するに決まってる。
元カノはたしか金で、その前は体、その前の前はヘラって別れたんだっけか。
毎度よく自分から罠にハマれるもんだ。もはや才能としか思えない。