マリアの心臓



「ほんと、見る目ねえよなあ。羽乃も、……衛も」




おい、鈴夏。オレまで巻き添えにするな。


ちがう。……ちげえよ。

見る目がないのは、あっちのほうだ。




「その点、ボクのハニーは、女神級にいい子だから困っちゃうな~」

「ハニーて。カノジョじゃねえだろ」




わざとらしく神経逆撫でしてくる鈴夏に、羽乃は涙声で反撃する。

が、効果はいまひとつ。
鈴夏のドヤ顔にダメージはない。




「カノジョより大事な子だもーん」

「だもん言うな。きもい」

「泣き止んでから言ってくださーい」




ああ言えばこう言う……。

高校生にもなって、小学生みてえな口喧嘩を……。

年上の鈴夏が一番子どもじゃねえか。




「そろそろやめ……」


「鈴夏のバカ! アホ! ストーカー予備軍!」

「フラれた男に言われてもねえ?」

「おまえは愛が重すぎて受け取ってすらもらえてねえくせに! むしろおまえを好きになるヤツの見る目がねえわ!」

「はい、ブーメラン」


「……はぁぁ」




らちが明かねえ……。
涙腺崩壊した羽乃は、精神年齢まで崩壊してるし。

喧嘩するほど仲がいいとはよく言うが、生産性のないお遊びに付き合ってられるほど暇じゃない。


渋々、コホン、とあえて大げさに咳払いをした。




「鈴夏、羽乃」

「……あ、衛」

「おっと」

「もう、いいか?」




ぴりっと殺気をほのめかせば、ただちにふたりは姿勢を正した。

これでよし。


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