マリアの心臓
「番長どうのよりも、あるヒトを守るために騎士団なるっつって張り切ってた」
「き、騎士団……??」
「よくわかんないよなあ」
「……まあ、でも……それが本当なら、よかったんじゃね?」
「そう、かもな」
いまどき騎士団っつうのはわからねえが。
好き好んで日影を歩く必要なんかない。
神亀を敵に回すより、誰かのための正義になれるなら、そっちのほうがかっこいいし、よっぽど健全だ。
こっちとしても、敵が減るのはありがたい。
うらやましくも思うよ。
堂々と胸を張って、誇れるなんてさ。
ズボンのポッケに入れっぱなしだった、くしゃくしゃの果たし状を、びりびりに破いた。
夜風にそっと吹かせれば、鈴夏の声がぴょんと弾んだ。
「でもさ! この話のおもしろいところが、まだあって!」
「なに?」
「ヤツらが守りたいって思ってるヒトが、なんと! あの優木まりあなんだと!」
「は!?」
優木まりあ。
その名前に、ひくり、心臓が萎縮した。
「うまくたぶらかされたのかねえ〜?」
「でもあいつが衛以外に媚び売ってんの見たことねえけど」
「たしかに……」