マリアの心臓



気遣ったわけじゃなくて。

手足をくくるロープの頑丈さやら、倉庫内の殺風景な配置やら、リアリティがすごいなあ。舞台のセットみたいだなあ、と。

思った、んだけど……。


これっていわゆるノンフィクション?

こんなこと、劇以外でも起こり得ちゃうものなの!?



ちんぷんかんぷんなアタシとは対照的に、隣の少女は怯えてはいるものの、この突飛な状況を受け入れてもいた。




「こうなったのは、すべて、わたしのせいなんです」




それって……つまりどういうこと?




「彼らを利用したばっかりに、こんなことに……」

「利用?」

「実は、昨日のナンパは、仕掛けてやったことなんです」

「えええ!?」




予想だにしなかったカミングアウト!

劇だったのは、今日じゃなくて昨日!?
劇のポジションでいう、黒幕的なアレですか!?


鈴子ちゃんいわく。

昨日以外にもいろいろと騒ぎを起こしていたそうだ。主に、学校付近で。


ウノくんたちが余裕そうにしてたのも、昨日が初犯じゃなかったからか。なるほどなるほど?




「あの男たちはそこらへんのコソ泥で。泥棒したことは黙っておいてあげるから、って脅して、無理やりやらせてました」

「なんて博打を!」

「……ちょっとしたハプニングを作りたかっただけなんです」




ほんの出来心。いたずら。お遊び。

いくつか動機が浮かんだけれど、彼女の思い詰めた顔を見ると、どれも的はずれな気がする。




「でも……まんまとしてやられました。油断してたんです。脅してるから大丈夫だろう、と」




瞳が下へ下へ落ちていくにつれ、じわりじわり、濡れていく。




「そしたら、まさかの形勢逆転。あいつら、神亀を倒すチャンスを狙ってたみたいで。利用してたはずが、本当は、利用されてたんですよ」


< 75 / 155 >

この作品をシェア

pagetop