マリアの心臓
気遣ったわけじゃなくて。
手足をくくるロープの頑丈さやら、倉庫内の殺風景な配置やら、リアリティがすごいなあ。舞台のセットみたいだなあ、と。
思った、んだけど……。
これっていわゆるノンフィクション?
こんなこと、劇以外でも起こり得ちゃうものなの!?
ちんぷんかんぷんなアタシとは対照的に、隣の少女は怯えてはいるものの、この突飛な状況を受け入れてもいた。
「こうなったのは、すべて、わたしのせいなんです」
それって……つまりどういうこと?
「彼らを利用したばっかりに、こんなことに……」
「利用?」
「実は、昨日のナンパは、仕掛けてやったことなんです」
「えええ!?」
予想だにしなかったカミングアウト!
劇だったのは、今日じゃなくて昨日!?
劇のポジションでいう、黒幕的なアレですか!?
鈴子ちゃんいわく。
昨日以外にもいろいろと騒ぎを起こしていたそうだ。主に、学校付近で。
ウノくんたちが余裕そうにしてたのも、昨日が初犯じゃなかったからか。なるほどなるほど?
「あの男たちはそこらへんのコソ泥で。泥棒したことは黙っておいてあげるから、って脅して、無理やりやらせてました」
「なんて博打を!」
「……ちょっとしたハプニングを作りたかっただけなんです」
ほんの出来心。いたずら。お遊び。
いくつか動機が浮かんだけれど、彼女の思い詰めた顔を見ると、どれも的はずれな気がする。
「でも……まんまとしてやられました。油断してたんです。脅してるから大丈夫だろう、と」
瞳が下へ下へ落ちていくにつれ、じわりじわり、濡れていく。
「そしたら、まさかの形勢逆転。あいつら、神亀を倒すチャンスを狙ってたみたいで。利用してたはずが、本当は、利用されてたんですよ」