マリアの心臓
いつだって、非日常だよ。
「鈴子さんだって、イレギュラーなことでいっぱいでしょ?」
「わ、わたしの場合は……そう仕向けてましたから」
「どうして?」
「……鈴夏さんを、困らせたくて」
反抗期のデレですか!? かわいい!
ときめきで表情筋をとろけてしまう。
「ちがいますから、そういうんじゃないですから」と即刻、不満げに釘を刺された。
あ、ちがうの?
「わたしはただの身代わりだって、気づかせたいんです」
デレではなく、み、身代わり……?
「鈴夏さんが愛してるのは、わたしじゃないんです」
「で、でも、あんなに……」
「はい、わかってます。重度のシスコンですよね。だからですよ。……だから、気づかせたいんです」
つらいとか、さびしいとか。
そんな灰のかぶった苦味じゃない。
そこに在るのは、ひとえに、純真な願いだった。
「あの人が愛してるのは、わたしじゃなくて、妹という存在だと」
そうつぶやく彼女は、きっと、彼をとても愛しているのだ。
「こういう状況になったら、気づくの?」
「助けに来たのが、わたしなのか、“妹”なのか。はたまた使命感なのか、わかるでしょう?」
確信に近い言い方だった。
ハプニングを仕向けるたびに――助けられるたびに、うすうす感じ取っていたのかもしれない。
つらさとか、さびしさとか、深く深く押し殺しているのは、むしろ、彼のほうだと。