マリアの心臓



「な、なにごと!?」




こちら側からほとんどうかがえない、倉庫の外で突如巻き起こった、爆発的な喧騒。

鳥肌の立つ体をきゅっと丸めた鈴子さんを、安心させるように、アタシは身を擦り寄せる。




「来てくれたんだよ」

「なに……だれ、が……?」

「本当は気づいているんでしょう?」

「っ」




アタシたちの、ヒーローだよ。




「――っ鈴子!!!」




ひと筋の光が、天井からこぼれ落ちる。

軋みながら開かれた小窓から、光に透けてきらめく人影がひとつ、舞い降りた。

ドン、と地響きを連れて。



……あぁ、やっぱり。




「鈴子! お待たせ!」

「す、鈴夏……さん……?」




彼の登場は、いつも派手やかにきまってる。




「なん、で……来るにしたって早……」

「バカだなあ、鈴子は」

「え、なん……」

「鈴子を助けるのに、理由なんかないのにさ」

「……え?」




話は全部聞かせてもらったよ、と。

耳をしっかりカバーしていたヘッドフォンを、汗のしたたる首へと下ろした。


ぽかんとしたままの鈴子さんのロープを、丁寧にほどいてあげる。

その横顔はひどく朗らかで、アタシなんか眼中にない。




「鈴子の言うとおり、ボクは“妹”に囚われてるよ」

「……うん」

「だからって、鈴子を大事に思っちゃいけないわけじゃないだろう?」

「……っ、う、ん」



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