マリアの心臓
さくっと簡単にアタシのロープも取り外してくれた。
お兄さんがたがやってくる気配は、今のところない。
神亀の作戦としては、少数精鋭。
まず入口周辺で戦闘開始し、気を引かせておきつつ、裏の小窓からこっそり侵入する算段だった。
見事に成功しているあたり、さすが最強と謳われるチームだ。
ただ、敵の応援が思ったよりも多く、数で圧倒されているらしい。
どうりでさっきから、ガンッゴンッと、血の気の多い音が鳴り止まないわけだ。
「鈴子たちはもうちょいここで待ってろ。おにーちゃんがきれいさっぱり掃除しに行ってやる」
「で、でも……っ」
「だいじょーぶ。おにーちゃん、強いから」
身をもって彼らの物理的な力量を知っている鈴子さんは、戦力の差を聞き、心配を拭いきれずにいる。
自分がお荷物になってるせいで、傷ついちゃったら、いやだよね。歯がゆいよね。
……わかる。すごくわかるよ。
いくら引き留めようが、ヒーローは戦いに行ってしまうんだ。
彼らが守ろうとする限り、何度でも。
それならば。
「大丈夫。鈴子さん、大丈夫だよ」
「……ほんとうに?」
「うん。本当に」
アタシたちも、彼らの味方にならなくちゃ。
あの大きな大きな背中を、支えてあげたいの。
ヒーローにピントを合わせた双眼を、きらり、反射させた。
「神亀は最強なんだもの」
「そーそー! ボクらにゃ、誰も敵わないよ!」
「神さまにも、勝てちゃうんでしょう?」
「そーそ…………かみ、さま? ……ま、まあ、負ける気はない、けど……」
「ほら! だから大丈夫! 一緒に待っていよ? ね? 鈴子さん」
彼女の震えた手に、アタシのを重ねる。
熱をいっぱい蓄えたアタシの手のひらは、あったかいでしょ?
倉庫の中でも、ちっとも寒くないよ。
笑顔を浮かべればよりいっそうぽかぽかしてくる。
その熱にあてられ、彼女は渋々うなずき、ヒーローを送り出した。
想いも、温もりもわかち合って、ここでふたりで「おかえり」って言ってあげよう。